小説

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  2. 心の中の(04/27)
  3. 天使からの贈り物(03/29)
  4. 山の中で…(02/06)
  5. 寒すぎて… (01/18)
  6. 闇からの光(01/17)
  7. 迷い道(01/15)
  8. どこでもない世界(01/13)
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心の中の

2006.04.27(17:59)
 目を閉じると、荒涼とした世界が広がる。
 まだ、荒れ果てているのか・・・私の心は・・・
 そう感じ、少し残念な気がした。

 愕然とすることにはもう飽きた。いや、慣れたというべきか。
 それでも、最初の頃に比べたら、まだまだマシだ。あの頃は、もう修復不可能ではないかとさえ思ったのだから。

 
 いつの頃からだろうか、目を閉じると自分の心の状態が景色として現れるようになったのは。
 きっと、何もかも打ちのめされて、これ以上ないどん底に落ちたあの瞬間からだったように感じる。
 あの瞬間、私の中には核爆弾が投下されたのだ。全てを焼き尽くし、消し去った悪魔の所業。生き残っているのが不思議なほどの衝撃と傷を負い、それでも何とかここまでやってきた。
 
 心身ともにボロボロになり、救いを求めさ迷った。癒されるためなら大枚をはたいたこともある。けれども、それがどの程度役に立ったのかなど、今となってはわからない。
 本もこれでもかというくらい読み漁る。買うお金などないので、図書館で借りまくる。1日に数冊読むこともしばしばあった。これは大変役立ったように思う。かなり成長できたのではないかと、自画自賛してしまう。
 
 そして、ある種悟ったように感じた時、はっきりとした心象風景が見えた。それまでは、なんとなく、おぼろげだったのに。

 自分のことは自分が良く知っている。

 よく言われる言葉だが、私はそれまでは、自分のことでもわからないこともあるのに、と考えており、この言葉はちょっと違うのではないかと感じていた。
 違うのは、私の方だった。自分自身の内なる声に耳を澄ましていなかっただけなのだと、唐突に気づいたのだ。内なる自分とちゃんと向き合っていれば、全てはわかったことなのに!
 
 心の景色が見えたからなのか、気づいたからそれが見えたのか、どちらが先かなどどうでもいいことだ。
 ただ、気づくべきことに気づくこと。それが出来れば、自ずと道は見えてくる。

 今まであったいいことも悪いことも全てが意味を帯びてくる。
 無駄など何一つない、その意味を理解することが私たちの生まれてきた必然なのだ。

 何も理解しようともしない、無知な人間も多い中、核爆弾を投下されたことにより気づけたことは、私にとって辛いけれども、必要なことだったのだ。その大きな気付きを与えてくれた出来事に感謝したい気持ちで一杯だ。

天使からの贈り物

2006.03.29(21:21)
 ただひたすら眠りたかった。

 自分の不甲斐なさに落ち込みもしていたし、イライラしてどうしようもなかった。周りの全てのものが自分を使えないヤツだと思っているような感じがして、怖い。だからといて、寝逃げなどではない、そう自分に言い聞かせながら泥のように眠る。

 目が覚めると、天使がいた。
 いや、天使に見えただけで、きっと家族が部屋に来たのだ、と目を凝らしてよく見る。驚いたことに本当に天使だ。長く艶やかな髪、美しい面立ちは性別を逸脱し、背中には白い翼がある。頭上の輪こそはっきりしないものの、全身からは光が溢れ、その神々しさに目を剥くばかりだ。
 暖かな優しい眼差しでこちらを見ながら、微笑む天使が確かにそこに存在していた。

 声をかけると消えてしまいそうなその気配に、私は息をのみながら天使を見つめ、けれども、何かを問いかけたい衝動に駆られていた。
 ゆっくりと天使がうなずき、大丈夫、とつぶやき、にっこりと笑う。
「何がどう大丈夫だと?」
 思わず疑問が口をつく。すると天使は、背中の羽を1本抜き私に差し出しながら言う。
―私がいつも傍にいるから大丈夫。あなたはそのままで大丈夫―

 おずおずと羽を受け取ると、天使は私を抱きしめるように包み込み、そのまますぅーと消えていった。まるで私の中に吸収でもされたように・・・

 手には羽が残り、突然の出来事に呆然としながらそれを見つめるともなく見ていると、ゆっくりと曲がっていき、リング状になっていく。光を放ちながら宙に浮き、ひときわ大きく輝くと指にすっぽりとはまった。
 淡い光を放つその指輪からは身体の、心の、底から元気になるような、癒されるようなパワーが溢れ出し、私を前向きな気持ちにしてくれる。

 天使はこの指輪と共に私の傍にいつもいてくれる。その安心感を得ることが出来たことに素直に喜び感謝した。

 私はまた進みだすことが出来るだろう。心からそう思えた。


山の中で…

2006.02.06(20:06)
「早う帰らんと山の神さんに怒られるで〜」

 夕焼け空が暗さを増してくると子供達は口々に言いながら帰途につく。

 ゆうは山の神様なんて信じていなかったし、早く帰らなければ叱られるようなこともない。
 普段なら他の子供達となんとなく一緒に帰るのだが、今日は帰りたくはなかった。
 昨夜遅くおば達がゆうを人買いへ売る相談をしているのを立ち聞きしてしまったからだ。

 ゆうには親がいない。
 幼い頃、子供に恵まれないおば達にもらわれてきたのだ。
 それでも実の子供と変わらぬ愛情を受け、何不自由なく育ててもらった。
 一昨年おば達に待望の赤ん坊が誕生し、その赤ん坊と分け隔てなく可愛いがってくれることに少なからず安心していた矢先の出来事だった。
 赤ん坊が産まれたことにより、ゆうを用済みと考えたおば達にショックを受けた。

 やはり自分はいらない子なのか…
 そう思いながらぼんやりしていると、辺りに人影はなく日も完全に落ちていることに気付かなかった。
 真っ暗な山の中、一人きりになったのだと意識し始めるとどんどん恐怖感が襲ってくる。
 素直に麓の村の明かり目指して帰ればいいのだが、怖いと言う思いに縛られて動くことが出来ない。

「お前は帰る場所がないのか?」
 暗闇の山中には似つかわしくない長髪の細面の美青年がそこには立っている。
 突然話かけられたゆうは心臓が止まるかというほど驚いたが、他に人がいたという安堵感を覚えていた。
 しかし核心をついた質問には答えられずに黙っていた。
「口がきけぬならよむぞ」
 よむって?と少し混乱しつつ、
「帰る場所がないわけじゃないけど…」
と口ごもりながらも答えると、
「帰る場所があるなら帰れ」
 切長の瞳を細め、眉をひそめながら青年は不快そうに言い放つ。
 ゆうはその冷たい言い方に泣きそうになりながらも、昨夜のおば達のやりとりを思い出すと帰る気にはならなかった。

 ゆうが帰る気配も見せず、ただ立ちすくんでいる様を見ると青年はじっとゆうを凝視し始める。
 その瞳は力強く虹彩にはさまざま色が瞬時に浮かぶ。
 吸い込まれそうな瞳に捕われたゆうは、その視線にこの青年が人ではない可能性にようやく気付く。
 しかし不思議と恐怖感はない。
「来い」
 凝視し終えた青年はそう短く言うとスッと後ろを向いたかと思うと山の奥へと進んだ。
 一瞬きょとんとしたゆうは、言われた意味を理解するや否や見失うまいと青年を追いかけた。

 青年は山の奥深くへと歩みを進める。
 ゆうが必死について行くと、山深くにあるとは信じられないほどの屋敷に辿り着いた。
 こんな大きな屋敷があるとは村の人達は知らないに違いない、と何やら確信めいたことをゆうは思う。

 屋敷の門をくぐった途端、空気が変わったように感じ身震いする。
 先を歩いていた青年は急に振り返り、
「名は?」
と問う。
「ゆう」
 そう答えた時、青年の腰まで届くまっすぐな髪が一瞬光ったような気がした。
「ゆう。お前はここにいるといい」
 それだけ言うと姿を消す。

 やっぱり人ではなかったのか、そう改めて思いつつも居場所が出来たことを素直に喜んでいた。
 しかし、こんな大きな屋敷の中一体どうすればいいのだろうと視線を巡らすと着物の裾が引かれる。
 足元を見ると30cmほどの何かがいる。
「あんたもヌシ様に救われたな〜」
 そう喋る何かはどう見ても動物に見える。
 キツネのようなタヌキのようなイノシシのようなネコのような…
 見ようによってはどの動物にも見える。
「ヌシ様?君は何?キツネ?タヌキ?もしかして騙されてる?」
 軽いパニックに陥ったゆうをあきれるように見ると、
「ついさっきまであんたと話してた方がヌシ様だよ。
 ワシはキツネでもタヌキでもないがそれらでもある。あんた達の世界で言う精霊みたいな感じかの〜
 だから騙されてなどおらんよ」
 さっきの青年がヌシ様で、このへんちくりんな動物が精霊?
 ってかヌシ様って何者?
 などと考えこんでると
「まぁ深く考えなさんな。
 あんたもここで過ごせば良いだけだよ」
 精霊はそう言い、屋敷をいろいろ案内してくれた。

 屋敷の一部屋をあてがわれ、その中にはふかふかの布団が敷いてあった。
 昨夜のおば達の話、真っ暗な山の中での恐怖、ヌシ様との出会い、山奥深くの屋敷、へんてこな動物の精霊。
 少しの間にいろんなことがあったような気がする。
 布団に寝転がりながらゆうがそんなことを考えていると、思いの他疲れていたのかいつしか深い眠りに落ちていく。

 昔と変わらずに慈しんでくれるおば達。
 赤ん坊を取り囲み皆で笑う。
 明るく暖かな雰囲気に人買いの話などなかったかのようだ。
 あの話はゆうの見た幻。
 この幸せがいつまでも続けばいい…そういつまでも…

 目が覚めるとあの山奥の屋敷の部屋だった。
 幸せなあの時間こそが夢であった。
 ゆうは確かな現実を受けとめ、屋敷での生活を始めた。


 それから幾年月が過ぎゆき、ゆうが成人したある日。
「戻るか?」
 ヌシ様に唐突に問われる。
 瞬間何のことを訊かれているのかわからず、きょとんとしていると、
「ヌシ様は村に戻るのか?と訊いてらっしゃる」
 いつの間に来ていたのか精霊がヌシ様の言葉を補足し説明し始める。
「あんた達の世界へ戻る最初で最後の機会だよ。
 戻るも戻らないもあんたの自由だ。
 戻れば今まで通り人間として、ここにいればもう人間と交わることはなく人間ではなくなってしまうだろうがね〜。
 でも戻るのは今の時期しか出来ないし、戻ればここには2度と来れまい」
「もうお前をどうこうしようという人間は居ぬだろう」
 ヌシ様がそう締め括るとゆうには3日という期限が与えられる。

 屋敷で生活している間もほとんど人との交流はなかった。
 それでも年に数度元いた村ではない村祭りを見に山を下りたこともあった。
 自分は人間であり、ヌシ様や精霊と共にいきるのは本来の姿ではないことも薄々はわかっていた。
 人間であることを捨てこのままここでの生活を続けるか、村に戻り人間社会での生活の再出発を始めるか。
 その選択を今せまられ、3日という期限内に結論を出さねばならない。
 ゆうは悩みもがいた。どちらの選択も1度きり。選ばない方を完全に捨て去ること…
 どちらも完全に捨て去ることの出来ないゆうはヌシ様の最後の言葉を思い出し村に戻る決意を下した。


「ゆう?お前さんゆうじゃないかね?生きとったね?」
 村人達はゆうを見るなり驚愕を隠しきれない様子で集まり喜んだ。
 口々に無事を祝い、奇跡だとありがたがる。
 ゆうは神隠しから戻った人間として、村の一員として新たな生活を始めた。
 不思議なことにゆうが神隠しにあった後、おば達がゆうを売るつもりだったことが周囲に伝わり、それが原因で神隠しにあったのだと村中で噂になったらしい。
 その噂にいたたまれなくなったおば達はその後村を出たそうだ。
 そんなことがあったので村人は尚のこと優しくゆうを迎え入れてくれたのだ。

 時折ふと考えるのだ。
 ヌシ様にはゆうが村に戻ることも、村人達に優しく迎え入れられることも全てお見通しだったのではないかと…




寒すぎて…

2006.01.18(20:24)
寒さに打震える。
歯の根が噛み合わずカチカチ鳴る。
どうしてこんなことになったのか…

そうだ!
どこからともなく笛の音が聞こえてきたのだ。
するとあれほど晴れわたっていた空が突如曇り、一瞬のうちに空を覆ったかと思うと大粒の滴が落ち、たちまちに大雨になってきた。
 驚いたことにその雨は次第に雪へと変わり、雪はあられ、雹(ひょう)へと変化していく。
 それに伴い辺りの気温は一気にどんどん下がる。

 雨が降る前はうだるような暑さ。
 それが急激な気温の降下。
 真夏の薄着でズブ濡れになり、体温は失われる一方だ。
 灼熱地獄から極寒地獄である。
 このまま何もないここで寒さに震えるしかないのか…
 そう考えたとき、ふと気付いた。
 これは心象風景そのものなのだと。

 幸せの絶頂から突然の絶望。
 崖から真っ逆さまに突き落とされたかのような人生の転落。
 その温度差を今、体験しているのだ。
 風が吹きすさび体感温度はより一層下がる。
 寒さが増せば増すほど自分が再起不能なほど深く傷付いていたことを知り愕然とする。
 あまりの寒さに次第に感覚が麻痺して意識が薄らいできた。

 もう終わりだ。死ぬんだ…
 心の寒さに凍え死ぬと覚悟した。

 すると、またどこからともなく笛の音が聞こえてくる。
 その途端風はやみ、雹(ひょう)はあられ、雪、雨へとテープを巻き戻すかの如く戻っていく。
 そして、それは暖かい雨になり身体を温める。
 その雨もいつしかやみ、明るく穏やかな陽射しがあたりを包んでいる。

 身体が光に包まれ温められると温もりを持ったその光は心の中へと染み込んでいく。
 隅々へと伝えられる光は傷を見つけては温度を与え、凍りきって生ける屍のようになったそれに活力を促す。

 光と温もりに包まれるのはとても心地良く、自然と身をまかせていた。


 立ち直れないほどボロボロにうちひしがれていた自分は完全に消え失せていた。


闇からの光

2006.01.17(19:55)
 この世の闇はもうじき明ける。
 ふとそんな言葉が降って来た。
 何のことだろう? そう考えることもないくらい、この世の中の荒廃ぶりはすさまじいものがあった。

 一歩、街に出ればスリや強盗がそんじょそこらを徘徊し、虎視眈々と金目の物を奪おうとしている。ひと気の少ないところでは暴力や強姦が横行し、通り魔に襲われることも日常茶飯事で、なにをどう気をつけていけばいいのかわからない有様。とてもじゃないけれど一人で出歩くには危険すぎる。
 さりとて家でおとなしくしていたところで、振り込め詐欺や悪徳訪問販売など、あの手この手で金を巻き上げようとしている連中が枚挙をいとわない。
 人を人とも思わない、自分さえ良ければ他人はどうなろうが知ったこっちゃない、そんな風潮が蔓延としていた。
 若者たちは生きる希望を失い無気力になり、年寄りはこんな世の中に嫌気がさし、早くお迎えが来ないかと祈っている。
 誰しもが、どうやって希望を持ち生活していけばいいのかと模索している時代。

 その闇がもうじき終わるというのだろうか?
 皆が明るく笑顔に満ち溢れた人生を送れるようになるというのだろうか?
 にわかに信じられない、けれども、それに一縷の望みを託してみたくなるような、甘い響きに自分自身、何を夢見ているのだろうと思ってしまう。

 しかし、事態は急変した。
 突如として奇病が流行りだした。暴力を振るおうとしたり、人を欺く行為に及ぼうとすると激しく心臓に痛みが走るというのだ。逆に、人に対して親切にしたりすると今までにない幸福感が味わえる。実におかしな、しかし、真理にかなった奇病だった。
 さて、それからというもの、悪いことをしようとすると死ぬかと思うほどの心臓の痛みに襲われるわけだから悪いことが出来ない。そして、いいことをした方が自分にとっては得なわけだから、こぞって皆がいいことをし始めた。
 
 人を見たら、相手が困っているかどうかにかかわらず手を差し伸べ、その幸福感に酔いしれる。もっとも相手が迷惑だと感じたら、感じるはずの幸福感が感じられないというのも面白いところで、本当に相手の為になった時にしか幸福感に浸れない仕組みになっているらしい。
 
 奇病はまさしく、闇からの一縷の光だったのだ。そして、それが奇病などではなく、本来の人間のあるべき姿なのだということに気付いたのは、世の中が平和になり安穏とした生活を営み始めてから随分経ってのことだった。



迷い道

2006.01.15(21:41)
 黒猫に誘われて迷い込んだ先は古い路地裏だった。
 それほど歩いたとは思えないのだが、近所ではないことだけは確かだ。

 見知らぬ景色にキョロキョロしていると、前方でニャァと声がする。
 まるで、こっちだよ、とでも言うように…

 そのままついて行くと路地裏の先にスイセン畑があった。
 白いジュータンのようなスイセン畑は風にそよがれ、今まで歩いてきた路地裏とあいまってどこか懐かしい風景を見ている感じだ。

 都会の喧騒を忘れ、たまにはこんなのんびりした空間を過ごすのも悪くはないな、そう思った時、また視界に黒猫が入る。
 ピンと立てたしっぽを左右に振って。
 何だかまだ誘われているように思えて再び後をついて行く。

 着いたところは森、いや林と言った方があってるだろう。
 薄暗いその入り口で躊躇していると、少し奥に入ったところで例の黒猫がうるさいくらいに鳴いている。
 林の中で何かあったのかもしれない
 そんな鳴き方に心配になり、林に足を踏み入れた。

 黒猫は無事だった。
 鳴き声はいつの間にか止み、その傍らにはキノコが生えていた。
 どうやらこのキノコを知らせたかったようだ。

 しっぽでキノコを指すようにしてそれに触れと促す。
 例え毒キノコだったとしても触るくらいなら問題ないだろうと手を伸ばし、触れようとしたその瞬間!

 まばゆいばかりの光に包まれると同時に清々しい気分になり、気付くと自分の部屋にいた。
 林はおろか黒猫さえも跡形もなくなっていた。


 あの黒猫は一体何だったのだろう…
 夢見てただけなのかもしれない。
 でも、黒猫に会ってからの私が今まで以上に明るく元気に過ごせているだけでなく、嬉しい出来事が立て続けに起こっていることは確かだ。

 もしかしたら、あの黒猫は天使だったのかもしれない…


どこでもない世界

2006.01.13(21:43)
 ふわふわふわりプカプカ…

 目を覚ますと宙に浮いていた。
「…!」
 声にならない悲鳴をあげ、よくよく見てみると透明なエアベッド。
 なんだ〜と安堵する。
「起きたの?気分はどう?」
 尋ねられそちらを向くと犬のぬいぐるみが…
 キョロキョロしても誰もいない。
「…!?」
 再び声なき悲鳴をあげる。
「やれやれ…これだから人間ってヤツは頭が固いね〜」
と短い両手(前足?)をバンザイし顏を左右に振る。
 呆れてしまいお手上げ、とでも言うように。

 頭が固いと言われてちょっとムッとしながらも、
「あの…あたしどうしたの?」
と聞く。
「あんた何も覚えてないの?まぁ、あんなことするくらいだから事情があったんだろうけど…」
 ぬいぐるみは更に呆れ、驚きと共に言う。
「あんな…こと…?」
 尚も訳がわからず呟くと、
「…あんた、高いところから飛び降りたんだよ」

「飛び降りたぁ?」
「そう。たまに人間が紛れ込むんだけどみんな高いところからの落下者  でね…その殆んどが自ら飛び降りてるんだ」
 自ら飛び降りたということにもにわかに信じられなかったが、人間と言う表現や紛れ込むと言う言葉に少なからず不安を覚える。
「まぁ記憶がないのは飛び降りたショックからだろうね〜」
 こっちの不安をよそにぬいぐるみは喋り続ける。
「全く人間はどうしてイノチを粗末に扱うかね〜
 全てを捨てる勇気はないクセに自分自身は簡単に捨ててしまえる」
「簡単じゃないよ…死ぬのだって勇気いるよ…」
 簡単に捨ててしまえる、との言葉に思わず反論する。
 飛び降りたことも、なぜそうしたのかさえも記憶にないのに…
 なのにぬいぐるみは、フン、と鼻を鳴らすと、
「だ〜か〜ら〜わかっちゃないんだよ。
 家族や友人、仕事、財産など全てを捨てて最初からやり直せばいいのに、死んでしまったらやり直すこともできないじゃないか。
 確かに全て一からやり直すのは大変だし勇気のいることさ。
 だけど、それで生まれ変われるんだ。
 同じ勇気使うならどうせなら少しでもいい方に使わなきゃ」
「…でも病気で苦しんでる人だとそれもできないよね…」
「そういう人達もいるけど、大半の人は精一杯生き抜いてるよね?
 自分の人生投げ出したりはしないよね?
 誰よりもその大切さに気付いているから」

 ボク達には『死』という概念がないの。
 完全消滅、それがボク達の最期だから。
 だけどせっかく与えてもらったイノチだもん、無駄にしない。
 だからボク達は何度でもやり直すんだ。
 許される限りね…

 急にぬいぐるみの声が遠くなり、何かを喋っているようなのだが何を喋っているのか聞き取れなくなっていた。


 一面の白
 上下左右もわからないくらいの白に囲まれていた。
 やり直しますか?
 どこからか澄みきった声がする。
 やり直すかと聞かれ即答などできるわけもない。
 自分がなぜこのような状態に陥っているのか、皆目検討もつかないのだから…
 しかし、さっきのぬいぐるみといい、今の声といいやり直すことがベターだとでもいう感じだ。
 しばし考えていると目の前に人が立っていた。
  いや、よく見ると…

 天使

 真っ白い大きな翼を背負い、頭上には光の輪。
 神々しいばかりに輝きながら再び問う。
 やり直しますか?
「ハイ」
 無意識のうちにそう答えていた。
 では、もう一度
 言うや否や光がスパークし、一転し暗闇に包まれて行く…


 周りはザワザワしていた。
 それぞれは皆小さな声だが居会わせた者達は口々に言っていた。
「奇跡だ」「なんてことだ」「信じられない」
 うるさいなぁ、と目を開けるとざわめきはどよめきに変わる。
「助かったんだよ」
 医師のその言葉にどよめきは更に歓声へと変わり、部屋中が拍手に包まれる。
「あなた250mもの高さから落ちて…下に植え込みがあったものの一時は心停止までして…」
 そう言いながら涙をとめどなく流しながら母親は抱きしめる。

 再びもらった命、もう何があっても無駄にはしない。
 心にそう誓うのだった。

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プロフィール

Author:星月☆紗奈
なりきり作家(^_^;)
書く仕事をするのが目標!

日記等は
「星月☆紗奈の思いまにまに」

で書いてますのでよろしく(^^♪

著作権は一応星月☆紗奈に帰属しますので、無断転載・転用はお断りいたします。

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